西武鉄道安比奈線【後編】街から森の中へ進む電車道
ぶらり大人の廃線旅 第8回
■レールを持ち上げる根性ケヤキ
森を抜けると、道路を渡った先に用水を渡るガーダー橋が架かっていた。先ほどの朽ちた赤間川の橋梁とは大違いで木の柵が取り付けられ、遊歩道に変身している。レールはそのままなので雰囲気はいいのだが、何があったのだろうかと思えば、NHKの朝の連ドラ「つばさ」でロケ地となったことから、一部区間の遊歩道化が図られてようだ。「マムシ注意」「この先危険」など、歩行者が線路から外れないよう戒めている。相変わらず世話好きなお国柄だ。路盤の脇にはケヤキが何本もあり、半世紀の間に徐々に太くなった根がレールを持ち上げている。俗に言えば「根性ケヤキ」ということだろう。この先は県道の擁壁が立ちはだかっているので、少し川寄りに進んで橋桁の下をくぐり、再び線路跡に出た。
ここまで来ると廃線愛好家たちもあまり来ないのか、これまで明瞭であった同好の士たちの踏み跡も心なしか少ない。だんだん河川敷の雰囲気になってきたが、線路脇には畑もある。「こども二輪塾」のプレハブ小屋があるが、自転車競技をする子供たちを支援するものらしい。平日の昼真だからか無人だが、土がむき出しの凸凹コースが見えたから、あれを縦横無尽に駆け回るのだろうか。ほどなく前方にアーチ橋が見えてくるが、これは地形図に「輸送管」の記号で描かれているように、入間川水管橋である。このあたりから線路は再び藪の中に吸い込まれていった。
その藪の中に終点の安比奈駅跡があったようだが、藪こぎする元気はないので、このあたりでやめておこう。ほど近いところで西武建材のプラントが稼働している。砂利や採石などを販売しているこの会社は「安比奈線あっての立地」に違いないが、今の社員の中で砂利列車が走っているところを見た人はおそらく皆無だろう。
思えば人の一生はレールが錆びて朽ち果てるより短いが、岩山が崩れて砂利となって運ばれ、入間川のこの地に堆積するまでの千年、万年単位のスケールを考えると、途方に暮れてしまう。まあ考えても詮ないので、家へ帰って少し上等なビールでもいただくことにしよう。
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